空を飛んだ友達のはなし

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中学の時、僕は入学祝みたいなかんじで、当時最新型だったブリジストンの自転車を買ってもらった。それがうれしくて、僕は休みの日は地元の地図(県地図)を手に、お気に入りの自転車で何十km先だろうとホイホイ出かけていたんだ。

ほんとチャリが大好きだった僕

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僕は自転車を買ってもらってから、みるみる自転車の虜になっていった。僕の自転車は、別にスポーツタイプでもない、通勤通学に使うような普通の型のやつだったんだけど、僕はもっとスピードが出るように、いろいろ改造を施していく。スピードメーターも付けて、毎日飽きもせず何km/h出せるか挑戦していた。

でもさすがに飽きてきて、今度はウィリーとかドリフトとかジャックナイフとか両輪ジャンプとか、そういうテクニック方面に進む。たぶんそういうことをしちゃいけないタイプのチャリだ。

そしてそれも飽きてきたある日。いつも行かない方の町までざっと30kmのサイクリングに行くことにした。なんか一人で行くのもつまらないなー、と思った僕はその途中で友達のT君の家に寄る。

T君は僕の地元のクソ田舎の中でも最強クラスに田舎な地区に住んでいたので、僕が電撃訪問した時も、やっぱりT君は暇を持て余して、家の土間に筋肉マン消しゴムを並べているところだった。T君は二つ返事で僕の誘いに乗ってくれた。

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この長い長い下り坂を

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町へ行くには、ひとつ峠を越さなければならなかった。キツイ坂道を登りきってみると、目の前にそれはもう気持ちいい長い下り坂が続いていた。僕は調子に乗ってガンガンスピードを出して、ノンブレーキで下っていった。T君もそれに着いてくる。

田園地帯の道なので車通りもほとんどなかったけれど、時々、塊になって車が通っていった。別に車道の端を通っていれば安全だったのだけれど、今度は2tトラックの集団が走ってくるのが見えた。

これはヤバいと思い、僕は縁石の間からスッと歩道に入った。チャリで道を走っていればよくあることだ。でも、その時はスピードが乗りすぎていたのか、縁石の縁にペダルをこすりそうになった。僕は後ろを走るT君に「入るな!そのまま走れ!」と警告しようと後ろを振り返ったんだ。すると……

T君は空を飛んでいた。

それも、なんか事故っぽい飛び方ではなくて、自転車にそういう機能がついていて、それを発動させましたみたいな綺麗なフォームで、彼は空中を走っていたんだ。僕の視界はスローモーションになり、脳内にはパッヘルベルのカノンが流れた。

永遠のように長く感じる一瞬の後、T君はガチャッ!と着地したが、運悪くそこに溜まっていた砂で前輪が暴れてしまい転倒。幸い擦り傷だけで済んだけど、起きあがったT君がぼそっと言ったんだ。

「俺、飛んでたよね?」

「うん!うん!飛んでたよ!!」

なんか僕たちはヘンな感動に包まれて、そのままそこで、そのT君が飛ぶキッカケになった縁石を見つめたり、自転車に故障がないかチェックしたりしていたんだけど、なんかこれから行こうとしている町に、これを超える感動が待っているとも思えず、そのまま引き返して家に帰ったというオチ。みんなもスピードの出し過ぎには気をつけよう。30km/h超えたら石ころひとつでロックンロールだ。

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