インナーチャイルドからの逃避「水色ワンピースの女の子」

 

30代の頃。

静かな部屋でリラックスして心を落ち着けて、インナーチャイルドと対話をするというノウハウに俄にハマった。

 

とにかく、わたしの人生は、インナーチャイルドの胸ぐらを掴んで問い詰めたいくらいに不本意な状態になっていた。そのためにまずはインナーチャイルドを癒やすことに専念した。

インナーチャイルドを癒やすと、インナーチャイルドは私たちの願望実現を強力に手助けしてくれ、それはそれは魔法のようにことが進むという。

 

インナーチャイルドはわりと簡単に“視え”た。

 

それは、姉の学習机の下で膝を抱えて泣いている坊主頭のわたしだった。あの学習机が姉の物であるということは、わたしはまだ小学校2年生くらいか。

 

あれは母が電話中に何かをしつこく聞いたら、お腹を蹴られた直後の光景のはず。

たしかにあれは癒えていないと思う。その後にたくさん謝られたけど、理解ができなかったから。

 

違うよ。

何が?

坊主頭にされるんが嫌やったんよ。ずっと。

そうなの?

髪、伸ばしたかった。

「女の子みたい」って言われていじめられていたと思うよ。ぜったい。

それがなんかいけんのん?

いじめられんのとか嫌。

でもどっちにしろいじめられたじゃん。

あ……。

一人でも味方がおってくれたほうがよかった。

ごめん……。

 

インナーチャイルドを癒やすプロセスを続けていると、インナーチャイルドは想像の中でわたしをある場所に連れて行ってくれた。

そこは、山奥にある祖母の家の裏の渓流だった。古い砂防ダムがあって、渓流の透き通った水が溜まって池のようになっており、夏はよくそこで泳いだ。水が冷たくてすごく気持ち良かった。幼い頃から大好きだった場所だ。

そこに、水に足を漬けて座っている、夏らしい水色のワンピースを着た、長い黒髪の十代半ばくらいの女の子がいた。親近感とかそういうのを通り越して、なぜか強く「自分だ」と直感した。「自分よりも自分である何か」というのが適切だろうか。

普通、わたしくらいの年頃の男性が、人気のない場所でそのような薄着の若い女性を眼の前にしたら性的興奮を覚えるものなのだが、まったくなかった。

 

また、わたしには若干の霊感があるのだけれど、彼女には同じ波長の強い霊感の存在を感じた。いや、むしろ本体(?)なのか。

 

後ろに立っているのに、表情がわかった。悲しそうな、思いつめたような顔に、水面に反射した陽光が騒いでいた。

 

罪悪感が湧いてきた。

何も話してはいないけれど、見た瞬間に彼女を悲しませたのが自分であることを直感した。

ものすごく、気まずかった。自分のせいで深い悲しみに沈んだ15くらい年下の女の子を前にして、気まずくならない男がいるだろうか。

 

でも、癒やさなければ……。

 

わたしは判断を誤った。不本意な現状を一日も早く、魔法のように解決したかった。だから、彼女には何度も会いに行った。

この娘を味方につければ、人生が思い通りになるような気がしたからだ。

 

でもダメだった。

彼女の表情は和らぐことはなく、会いに行ってもいないこともあった。

まあ下心むき出しなのだから当然だ。わたしが逆の立場なら出禁にする。

 

結局、わたしは彼女の前から逃げた。

水面を見ているすべてを見透かしているような眼差しで刺されることを恐れた。

未だ聞いたことのない彼女の言葉で貫かれることを恐れた。

わたしは瞑想をやめてしまった。

 

残ったのは、俯いて水面を見ている彼女の悲しそうな横顔の一枚絵だけだった。

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コメント

  • コメント (2)

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  1. アバター
    • 匿名
    • 2019年 4月 08日

    はじめまして。
    以前あった匂いの表現のページは消されてしまったのでしょうか?
    大変独創的で面白かったので、また拝見したいです。

  2. JIN
    • JIN
    • 2019年 4月 14日

    @匿名
    コメントありがとうございます。
    あと、何の告知もなしの突然の大工事、申し訳ありませんでした。

    オーダー下さった匂いの表現の記事(これかな?)は、加筆修正のうえ、別ブログに【貧乏神】運気吸い取る系の人に共通するニオイ4選として公開致しました。

    何卒よろしくおねがいします。
    重ね重ね、ありがとうございました(^^)

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