自称ミュージシャンの迷惑な隣人を撃退したはなし

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昔、地方都市のオンボロ詐欺アパートに住んでいた時のはなし。引越してきた隣人が夜な夜なヘタなギターを弾き語る非常識な自称ミュージシャンでした。

【第一撃】壁殴り

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しばらくは我慢していましたが、マメなのか毎晩欠かさず20時くらいから2時間くらいギターを弾きながら黄色い声を出しやがります。夏でしたし窓を開けて弾くわ、すぐ隣にアパートがあって反響しまくるわでもう地獄。

僕も別に歌が上手いというわけではありませんが、それがまたヘタというか、すごく不快な歌声で、仕事帰りのくたくたボディに北斗神拳みたいに中から効いてきました。しかも運悪く休日が合ってしまった時なんて、一日中飽きもせずにやっていて、とても休息なんてできませんでした。

壁も、サガミもびっくりするくらいの極薄な詐欺アパートでしたので、歌詞も一言一句聞き取れました。その内容も、本人が5年後くらいに読み返したら死にたくなるような、甘々スイーツな内容で極めて不快でした。

近いものでいうと、GLAYのバラードっぽい歌詞。それをスピッツみたいなメロディーに乗せて、「え、お尻に何か入ってるんですか?」みたいな声で延々歌う。アンコールもしてないのに、同じ曲をリピートしたり……、とにかく僕の怒りのボルテージはどんどん上がっていきました。

とりあえず、「静かにしろ!」という意思表示をしなければなりませんでしたので、僕はある夜から歌が始まると壁をノックするようになりました。まあ、スタンダードな手法です。良識ある一般人なら「あらやだアタシったら」って菓子折りでも持って謝りに来ます。

効果なし

……ま、そんなもんですよね。壁ノックくらいで「あらやだ」ってなる人はそもそも夜な夜なギター弾いたりしませんからね。ギターの音で聞こえていないのかもしれないですし。とりあえず、温厚な僕は次の夜からノックではなく壁をブン殴るようにしました。

効果なし

ほーそうですか。なんすか、耳栓でもしてんすか?まさかあの恥ずかしいメロディーを録音でもして、ヘッドフォンで聴きながらやってんすか?え、ならギターは何?

どうやらなかなかの図太い神経を持った猛者であることがわかり、僕は次の手を考えます。

【第二撃】懐柔策

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もしかしたら、壁を殴られて意地になっているのかもしれない……

次に思いついたのは手紙作戦でした。当時、恋愛かなんかの心理学の本を読んでいたのもあり、内心「コレはいける」と思いました。攻撃的な内容はいけません。最初は褒めて、相手を認めてから要求をさらりとつきつける!

いつも素敵な音楽を聴かせて下さりありがとうございます。
とっても上手ですね!
(中略)
ただ、ちょっとうるさい気がして。
気分を害したらすみません。
どうぞよろしくお願いします。

みたいな文章だったと思います。

僕は早速、完成した「迷惑隣人撃退ウェポン」をポストに投函しに行きました。

激しくなりました。

あと低音が多くなり、ジャズっぽくなりました。なぜだ!なぜなんだ!?

あ、もしかして「うるさい気がする」って「曲が散らかっている気がします。もっと低い音の落ち着いた曲の方があなたの美声が活きると思います」とかそんな好意的なメッセージにとられたのだろうか?

もう翌日から、ジャズっぽい散らかりまくった低音の中で、黄色い声の男が時々「ハァン♪」「イェ~♪」とかいうカオスな単独ライブが開催されることになり、不動のS席にいる僕はマジでノイローゼ気味になりました。

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ついに隣人とエンカウント

手紙作戦が失敗に終わった次の週だったと思います。朝コンビニに買い物に行って帰ってくると、ちょうどアパートのエントランスに、めちゃくちゃパンクな人がいました。

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髪はアッシュっていうのかなんかまだら模様で、爬虫類みたいな模様のテカテカしたピッチピチの服を着ていて、ヒグマ除けみたいにたくさん音の出そうな金物をつけていました。

彼はポストをチェックすると、隣の部屋に入って行きました。

なん……だと……?

その見たくれで黄色い声出して、いや黄色い声はいいとして、スピッツみたいな曲調でアコギで激甘な歌弾き語りしてんの!?まじ草野マサムネに謝れ!

でも見た目のインパクトにビビった僕は、ちょっと真剣に考え始めていた“直談判”を諦めました。

……あーあ、誰かあいつに説教してくんねーかなー。

……誰か。

……説教。

……せっきょう?

!!

【第三撃】妙法蓮華経観世音菩薩普門品偈

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そうだ、お経を流そう!

僕はすぐに携帯電話でお経の音源を探し、とりあえず見つかったやつでいちばん長かった「観音経(妙法蓮華経観世音菩薩普門品偈)」というのをダウンロードしてきました。

そしてその夜から、演奏が始まると窓をそっと開け、携帯のスピーカーを外に向けて携帯を挟み、最大音量でお経を流してやりました。

演奏がピタッと止みました。

すかさず僕も、お経を止めます。カーテンの隙間から見ると、隣のアパートの壁に、彼が窓際に様子を伺いに来る影が映ります。

しばらくしてまた演奏が始まると、観音経最大出力!→ピタッ→……のループ。

そんな戦いが3夜続きました。すると、4夜目からもう彼は演奏をやめ、次の月にそそくさと引越していきました。

観音様スゲェ……

幽霊が出る物件とでも思ったのでしょうか?「お経=幽霊」とかアマチュアにもほどがあるぜボウヤ。ありゃ現世を楽しく生きるロックな哲学なんだぜ。

まあ、なにはともあれ静かな夜が戻って来たのでした。

彼は今でもどこかで黄色い声で歌っているのでしょうか?

上の階の住人のルンバの音がうるさくて、ふとそんな昔話を思い出した今日この頃です。