灰色のモンスターの想い出

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猫好きな私の家にはいつも猫がいました。どの子も個性的で大好きでしたが、今日はその中でもとくに印象的だったたろうさんのお話をします。

突然家にやってきた灰色のモンスター

ある日、母が自転車の荷台に大きなダンボールを積んで仕事から帰ってきました。

「近所のおばさんに野菜でももらったのか」

とか思っていると、そこから灰色の何かがピョン!と勢い良く飛び出しました。

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それは、お世辞にもキレイとはいえない薄汚れた大きな雄猫でした。

最初から名前があったモンスター

彼は来た時からいきなり

「たろうちゃん」

と呼ばれていました。

 

「いやいやいやいや!ちょっと待って!」

当時、我が家には雄の飼猫のくーさんがいました。しかも、くーさんは生まれつき尿管が細いらしく、ストレスや食生活ですぐに尿管結石になっちゃうデリケートな子でした。そこにこんなジャングルをひとっ走りしてきたハマーみたいなガタイの猫を連れて来て、くーさんがかわいそう!!

状況が飲み込めていない私は、母の突然の行動に驚きと若干の怒りを感じて問い詰めました。

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尿管が細いことでお困りのくーさんことくるみさん

くさん

たぬきのような見た目で途中から「たぬき」と呼ばれたけれど、
怒れる母の談判によって間を取って「(たぬきの)くーさん」に落ち着いたくるみさん

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収納のチェックに余念がない(たぬきの)くーさん

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あたまに()で「たぬきの」とついているのは私しか知らない

そこで、私は彼が突然我が家へ来ることとなった経緯を聞くことになるのです。

人気者だったたろうさん

母の職場には、たくさんの野良猫がいました。

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仕事の疲れを癒やしてくれる彼らを、みんなたいそう可愛がっていたそうなのですが、

中には彼らを毛嫌いする人たちもいたようで、いつしか猫愛護派と嫌猫派に別れて、仕事の上でも対立するようになっていったとか。

ただでさえ閉鎖的な超田舎の、さらに僻地にあるようなところなので、そういうこともあるのでしょうね。

 

たろうさんはその中でも最も古株で、いつの間にか誰ともなく

「たろうちゃん」

と呼んでいたのだそうです。

 

彼は、

「灰色の猫の形をした食欲の化身」

と言われるくらい食欲が旺盛で、人があげるものを何でも美味しそうに食べてくれたり、

何か食べていると

「ちょーだいちょーだい!」

って尻尾をピーンとさせて駆け寄って来たりする仕草が可愛らしい人気者だったそうです。

 

しかし、そんなある日のことでした

野生失格のたろうさん

母の職場にいきなり保健所の人たちが来ました。嫌猫派の人たちがこっそりと呼んだのです。

保健所の人たちは猫をおびき寄せるために、あやしげな餌をまきはじめました。

ところが、そこは野生の感覚が現役バリバリの野良猫さんたち。いつもはお腹を空かせているので、餌をくれる人には駆け寄って行くのですが、この時はみんな警戒して全く近寄らなかったそうです。

しかし、そんな中で一匹だけ、うれしそうに尻尾をピーン!と張ってスタタタタタ!と一目散に走って行く猫が……。

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それがたろうちゃんでした。

母は慌ててたろうちゃんを抱きとめて、職場で余っていたダンボールに詰め込み、自転車の荷台にくくりつけてそのまま帰ってきてしまったそうです。(無断早退ですね)

なかなか受け入れられなかったたろうさん

くーさんとはすぐに仲良くなったたろうさんでしたが、母以外の父と私にはなかなか受け入れられませんでした。とくにきれい好きな父に至っては姿を見ると「シッシッ!」とやる始末。

そんなわけで、たろうさんはしばらくは野良猫以上飼猫未満みたいな扱いでした。

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玄関先でごはんが欲しいたろうさん

私が受け入れられなかった理由は、たろうさんのケガでした。

たろうさんは尻尾の付け根にかなり大きなケガをしていて、尻尾の付け根だから動かさないなんてこともできず、もうずっと傷が開きっぱなしで筋肉が見えているような状態でした。

そんな状態だから、うっかり家に入ってきたたろうさんが寝た後の床や布団が体液でべったり汚れてしまっていました。それがどうしても嫌で、私はたろうさんとは距離を置いていました。

たろうさんと歩み寄ったきっかけ

あれはたしか、すごく冷え込んだ冬の夜のことでした。

「カリカリ……カリカリ……」

夜中に変な物音で目が覚めました。

「カリカリ……カリカリ……」

音はどうやらベランダに出る大窓からするようです。

「あかん、絶対幽霊やん……」

私は当時、紛うことなきチキン野郎でしたが、こういう時って不思議なもので、原因とバッチリと対峙してしまう方へと舵をとってしまうものですよね。昔やっていた「あなたの知らない世界」はウソではありませんでした。

テーッテッテレー

もう頭の中に、包丁を持ったしわっしわの老婆がベランダに正座していて、私の顔を見るなり、ねるねるねるねの「テーテッテレー!」みたいな感じで

「キョェーーーーーーッ!!!」

って叫んで

「イーッヒッヒッヒ……」

って不敵な笑みを浮かべて消えていく、みたいな光景がありありと浮かんで、冬なのに背中に変な汗をかきながら、私はおそるおそる窓のところへ行き、カーテンをめくりました。

 

たろうさんでした。

 

途端に、なんだかホッとしたのと、

「驚かせるんじゃねーよ!」

みたいなイラつきがこみ上げてきて、私はそこでたろうさんに

「コラッ!!」

と一喝をしてしまいました。

驚いたたろうさんは、2階のベランダから飛び降りて、どこかへ走り去って行きました。

たろうさんもしかして……

翌朝になって昨夜のことを思い出し、ふと

「もしかしてたろうさんは寒くて部屋に入れて欲しかったのかもしれない」

と思いました。

「くーさんみたいに温かい布団でなでなでされながら寝たかったのかな……」

途端に、私の中に強い後悔の念が芽生えました。昨夜のことだけでなく、これまでのたろうさんへの怪訝な対応とか含め、申し訳ないことをしたなと思いました。

 

たろうさんはいつでも全力でした。

全力で欲望をぶつけてくるその様子を、事もあろうに

「図々しい」

とか思っていた自分を恥じました。

「お腹が空いているだけじゃなくて、愛情にも飢えているんじゃないか」

「昼間はくーさんといっしょなのに、夜になると(父が帰ってくるので)外に出されるのが理解できないんじゃないか」

 

その日から、私はたろうさんが愛しくてたまらなくなり、

これまでのお詫びも兼ねて、くーさんと同じくらい目一杯かわいがってあげるようになったのでした。

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過去に私とニアミスしていたたろうさん

「あんた、たろうちゃんと前に会っとるやろ。覚えとらん?」

さらに、母からこんな話を聞きました。

 

そこから13年前の話です。

ウチの近所に、猫をたくさん飼っているとても親切なおばさんがいて、どういう経緯か小さい頃からよくそこの家に遊びに行っていたのですが、

ある時おばさんが私に

「子猫いらない?」

と言ってきたことがありました。しかも母親に事前承諾済みとのこと!

ちょっと前に飼っていた猫が天寿をまっとうしてしまって、わりと落ち込んでいた私は喜んでおばさんについて行きました。

「この子たちのどっちか連れて帰っていいよ」

目の前には見るからにやんちゃで、くりくりとした目に好奇心を爆発させているアメリカンショートヘアの子猫と、どこかすました感じのおとなしいロシアンブルーの子猫がいました。

で、結局

「直前まで飼っていた猫がキジトラだったので」

みたいな理由で、同じしましま系のアメリカンショートヘアの猫を連れて帰ったのでした。

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実は、この時に私が選ばなかったロシアンブルーの猫が数年後に行方不明になって、野良猫になってしまったのがたろうさんだったのです。

世界は狭いですね。いや、私の地元は本当に狭いです。

 

残念なことに、この時に連れて帰ったアメリカンショートヘアの「みるく」は、半年くらいで交通事故に遭ってしまい、この世を去りました。

でも、猫を飼っている方はおわかりいただけると思うのですが、近所の人って

「○○さんとこは猫好き」

みたいな情報をきちんと知っていて、里親探しに困った迷い猫を連れて来てくれたりするんですよね。

私の家にもすぐに迷い猫がやってきました。まだ思いっきりペットロスで、次の猫を飼うなんて気にはなれていませんでしたが、断るのもかわいそうで、親にお願いして飼ってもらうことに。

「みるくの分まで長生きして欲しい!」

という願いを込めて、その子をみるくの反対のくるみという名前にしたのでした。

 

――つまり、たろうさんは巡り巡って、結局私のところにやって来たのです。なんという運命の不思議。

そして、めちゃめちゃパワフルで見た目からは年齢不詳なたろうさんが、実は13歳のおじいちゃんだと知って驚きました。「たろうさん」と敬称で呼ぶようになったのはこの頃です。たろうさん、マイプレシャーーーース!!!

たろうさんとの思い出

たろうさんは野生生活が長かったので、高級なロシアンブルーとは思えないくらい大柄で筋肉隆々で、それでいて俊敏でした。「ネコはトラとかライオンの親戚」というのを納得させてくれたのはたろうさんです。

あと、食欲旺盛で基本何でも食べたいので、夏にアイスを食べていて体によじ登られたこともあります。

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飼い犬にあげようと思ったビーフジャーキーにロックオンしたたろうさん

たろうさんが二本足で立って私の手からカニカマをもらうのを真似して、くーさんがふらふらと立とうとして招き猫みたいになったり、

くーさんが近所のボス猫に追いかけられた時に、

「なにしてるのー?」

みたいに出てきたたろうさんの姿を見るなり、ボス猫が腰を落として一目散に逃げてしまったり。

自分も魚を食べた後なのに、飼い犬にあげた缶詰が欲しかったのか、めちゃくちゃ唸って威嚇されながらジリジリと犬のお椀に果敢に挑んでいたり。

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なかよしなくーさんとたろうさん

毎晩、父が寝たのを見計らって、勝手口からこっそりたろうさんを運び込んでいっしょに寝たり。

あと可笑しかったのは、朝方私が居間でうたた寝をしていた時、なんかものすごい息苦しくなって目を覚ますと、お腹の上でくーさんとたろうさんが丸くなってこっちを見ていたことがありました。(当時スマホがあったら、と思うと悔やまれます)

 

きっと車にぶつかっても死なないだろう、なんて思えるくらい、たろうさんはいつでも元気いっぱいでした。

たろうさんの最期

しかし、無敵のたろうさんにも勝てないものがありました。

寿命です。

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晩年のたろうさん

 

ある時からたろうさんはみるみる痩せていき、心配した母が病院に連れて行ったら、獣医さんに

「生きているのが不思議なくらい体の中がボロボロ」

「もう長くない」

と言われ、治療も諦められました。

 

そして、私は実家を遠く離れていましたので立ち会えませんでしたが、最晩年は24時間いつでも傍にくーさんが寄り添っていて、たろうさんが逝ったのを畑仕事の母に知らせたのもくーさんだったそうです。

老衰でした。

 

今はくーさんも天国に行ってしまって、たろうさんの傍で眠っています。

たぶんあっちでも仲良くやっているでしょう。たろうさんがお兄さんでくーさんが弟みたいな。

ほんと二匹とも、私のところへ来てくれてありがとう!めっちゃ幸せだったぞ!

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……引越しの荷物の中からはらりと落ちたたろうさんの写真で、ついつい思い出に浸ってしまった今日このごろです。

最期までお読み下さり、ありがとうございました。

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